オフィスビルの差圧を見える化して、空調の無駄と扉のトラブルを解決する
冬の朝だけエントランスの自動ドアが閉まらない。階段室の扉が重い。低層階は寒いのに最上階は暑い。空調機は正常に動いているのに電気代が下がらない。——これらを別々の不具合として扱っているなら、おそらく原因はひとつです。暖かい室内空気がシャフトを上って建物の上下に圧力差を作る煙突効果と、テナント排気と外気量のアンバランスが重なった差圧です。このページは、その差圧をどう測り、何から手を打てばよいかをまとめたものです。
差圧の正体は、建物の高さが作る煙突効果
なぜ冬の朝に集中するのかオフィスビルの差圧で最初に効くのは、建物の高さそのものです。暖かい室内空気が階段室・エレベーターシャフト・PS を通って上昇し、低層階が負圧、上層階が正圧になります。圧力が釣り合う高さを中性帯と呼び、そこを境に空気の出入りが逆転します。低層階で感じる冷気と、上層階から逃げている熱は、同じひとつの現象の裏表です。
⚠ 概算式です。夏は内外の温度差が小さいぶん弱くなり、向きも逆になります。冬の朝がいちばん厳しいのはこのためで、外気温が下がるほど差圧は大きくなります。
煙突効果:高さが原因なので、なくせない
10 階を超えると実害として出てきます。低層階は外気を吸い込み、上層階は空調した空気を押し出します。建物の高さは変えられないので、緩和して付き合うのが前提になります。
無駄の出方 低層階の暖房負荷と、上層階から逃げる熱。どちらも外気温が下がるほど大きくなります。
テナント排気と外気量のアンバランス
ビル内の飲食テナントの厨房排気は、1 店舗でビル全体を負圧に振れるほど大きいことがあります。24 時間運転のトイレ排気、地下駐車場の法定換気も同じ方向に効きます。
無駄の出方 外気処理機が追いつかないと、煙突効果の負圧に上乗せされます。
搬送動力:ここが金額の本体
ダクトの静圧設定が竣工時のまま高く固定され、静圧リセットをしていないビルが多くあります。ファンの動力は風量のおよそ 3 乗で効くので、下げられた分の効果が大きく出ます。
無駄の出方 必要以上の静圧でファンを回し続けている時間 × 年間。熱の損失より読みやすい金額です。
同じ原因で起きていること
別々の不具合として扱われがちなものすでにお気づきのもの以外にも、同じ差圧から来ている症状があります。「建物が古いから」「空調の能力不足」で片づけられてきたものが、ひとつの原因でつながります。
- 冬の朝、エントランスの自動ドアが閉まらない・隙間風がひどい
- 階段室や防火扉が重くて開かない(避難時の問題でもある)
- エレベーターシャフトの風切り音・笛鳴り、かご扉の異音
- 低層階のテナントから「寒い・乾燥する」、最上階から「暑い」
- トイレやごみ置き場の臭気が共用部に出てくる
- 喫煙室の煙が漏れる(法令上の基準を満たせていない)
- 空調機のフィルタがすぐ目詰まりする・ファンの電力が下がらない
- ビル内の飲食テナントの営業時間に合わせて空調の効きが変わる
どこに測点を置くか
高さ方向に 3 点が要使うのは 微差圧トランスミッタ + Milesight UC300 + UG65 の組み合わせです。機器そのものより、どこに置くかで得られる情報が変わります。オフィスビルでは、高さ方向に測点を取ることが決定的に重要です。1 か所だけ測っても、それが中性帯のどちら側なのかが分からないためです。
- 最上階・中層階・低層階の屋内外差圧 — この 3 点が要です。高さ方向に 3 点あれば 中性帯(差圧がゼロになる高さ)が何階あたりにあるかが出ます。煙突効果の強さと、どの階から手を打つべきかがここで決まります。
- 空調機(AHU) — 給気ダクトの静圧と、フィルタ前後の差圧。静圧の設定値にどれだけ余裕があるかが見えると、搬送動力を下げられる余地がそのまま出ます。
- 喫煙専用室 — 出入口の気流(または室内外の差圧)。健康増進法が求める 0.2 m/s 以上を満たしているかを、点検時だけでなく常時記録できます。
- エントランス・風除室 — 扉まわりの差圧。自動ドアが閉まらない・隙間風が強いといった苦情が、どの気象条件で出ているかを突き合わせます。
- 外気と各階の温湿度 — 外気温との相関で煙突効果の強さが決まるため、外気(気象 API)と各階の温湿度を並べます。冬の湿度 40 % 割れは過剰外気のサインです。
- CO2 — AM307 で各フロアの CO2。外気量が足りているか、逆に入れすぎていないかの裏取りに使います。
取り出し口の作り方で数字の信頼性が決まります。屋外側は壁に穴を開けただけにせず、風圧を拾わない静圧プローブで取ります(開口は下向き・フードつき、風が直接当たる面と排気口の近くは避ける)。室内側は吹出口・扉・シャフトの近くを外します。配管は短く、たるませないこと——たわむと結露水がたまり、値が動かなくなります。
上下階を、どうやって測るのか
ここが成否を分けます最上階と低層階は何十メートルも離れています。結論から言うと、1 台のセンサーで上下階をまたぐことはできません。各階に独立した 1 セットを置き、足し合わせはダッシュボード側で計算します。
- 配管を縦に伸ばしてはいけない — 「最上階にセンサーを置いて、基準側のチューブを 1 階まで引く」は原理的に成立しません。配管の中の空気柱そのものが、建物と同じ煙突効果を起こすからです。40 m 縦に引けば、外気 0 ℃・室内 22 ℃ で 約 38 Pa の誤差になります。測りたい信号と同じ大きさなので、あとから補正することもできません。導圧管は短く・水平に・同じ温度環境でが原則です。
- 各階に 1 セットを置く — 1 フロアにつき、微差圧トランスミッタ 1 台。室内側はその階で開放端にするだけ(配管は引きません)、屋外側はその階の外壁を短く貫通して静圧プローブへ。配管長は各階とも数 m 以内に収まります。これに UC300 を組み合わせて LoRaWAN で送れば、各階が完全に独立した測定になります。
- 中性帯は計算で出す — 各階の差圧を高さに対して並べると直線に乗り、その直線が 0 Pa を横切る高さが中性帯です。配管ではなく計算で求めます。さらに、直線から 1 つの階だけ外れていれば、その階に別の要因があるということになります(飲食テナントの厨房排気など)。測ること自体が切り分けになります。
- 外壁を貫通できないときは、階段室を基準にする — テナントビルでは外壁に穴を開けられないことのほうが多いので、各階のテナント室 ↔ 階段室(または EV ホール)の差圧で代用します。階段室は上下に連通していて煙突効果の圧力分布がそのまま出るため、外壁を触らずに中性帯の傾向がつかめます。扉の枠まわりに短い配管を通すだけで済みます。
しかも「階段室の扉が重い」という問題については、こちらのほうが本命の測り方です。扉面にかかる力は 差圧 × 扉面積 なので、0.9 × 2.0 m の扉に 30 Pa なら約 54 N。開放力 100 N 以下という基準が、差圧でいえば何 Pa に相当するかが直接結びつきます。 - 各階に電源が要る — トランスミッタも UC300 も常時通電で、電池式では成立しません。EPS・PS、空調機械室、給湯室のコンセントが使えるかどうかが、実際には測点の位置を決める一番の制約になります。測れる場所ではなく電源が取れる場所から考えると早いです。
測点は 2 点からでも始められます
いきなり 3 点でなくても構いません。最上階と 1 階の 2 点があれば直線は引けるので、中性帯は出ます。3 点目(中層階)は「直線に乗らない階がないか」を確かめるための検証用です。実務的には 低層階 + 最上階 + エントランス の 3 点から始めるのがおすすめです。エントランスを入れるのは、苦情が出た時刻と気象条件を突き合わせるためです。ゲートウェイの台数は電波状況で変わります。鉄筋コンクリートの床スラブは縦方向の減衰が大きいため、1 台で全階に届くとは限りません。必要な台数は現地確認でお出しします。
見える化したあとに読む 4 つの数字
差圧は「平均」では意味が出ません中性帯の高さ
何階あたりで差圧がゼロになっているか。建物の気密とシャフトの状態で動きます。対策の前後でこの高さが変わったかが、いちばん分かりやすい効果の指標です。
低層階の負圧時間率
低層階が −10 Pa を下回っていた時間が、1 日・1 シーズンのどれだけを占めるか。苦情の多い階から優先順位をつけられます。
ダクト静圧の余裕
設定値に対して実際にどれだけ余っているか。ファンの動力は風量のおよそ 3 乗で効くので、ここが金額のいちばん大きい部分です。
フィルタ前後の差圧
目詰まりの進み方。交換時期を期間ではなく状態で決められるようになり、搬送動力の増加も止まります。
法令で差圧・換気の管理が要るところ
省エネより話が早い部分オフィスビルには、省エネとは別に「測って記録しておく理由」があります。ここは省エネの予算ではなく、法令対応・テナント対応の予算で進められることが多い部分です。
| 喫煙専用室 | 健康増進法の技術的基準で、出入口において室外から室内に流入する空気の気流が 0.2 m/s 以上であることが求められます。実質的に負圧の維持で、測定と記録が必要です。常時監視にすれば、点検時だけでなく「満たせていなかった時間」まで残せます |
|---|---|
| 加圧防排煙 | 特別避難階段の附室などを加圧する設備では、加圧側の扉の開放力が 100 N 以下であることが基準に定められています(消防庁告示)。差圧が高すぎると避難時に扉が開きません |
| 建築物衛生法(ビル管法) | 二酸化炭素 1,000 ppm 以下、相対湿度 40〜70 %、温度 18〜28 ℃、一酸化炭素 6 ppm 以下。一酸化炭素と温度の下限は 2022 年 4 月の改正値です(改正前は 10 ppm・17 ℃) |
| 臭気の区画 | トイレ・ごみ置き場・厨房は負圧、サーバー室・電気室は正圧に保つのが基本です。法令ではありませんが、崩れるとクレームに直結します |
加圧防排煙の差圧は、省エネのために触る対象ではありません
加圧防排煙は消防設備です。設定を省エネ目的で変更してはいけません。このページで扱うのは「基準を満たせているかを常時見えるようにする」ところまでで、設定の変更は消防設備士・所轄消防署の領域です。見えたあとのアクション:解決は 5 段階
投資の小さい順に進めます煙突効果そのものは建物の高さが原因なので、なくすことはできません。やることは「緩和」と「無駄の削ぎ落とし」です。運用で取れるところから始めて、効果を同じ差圧データで前後比較しながら進めます。
| 段階 | やること | 費用の目安 | 差圧での確認方法 |
|---|---|---|---|
| 1運用の見直し | テナント厨房・トイレ・駐車場の排気を、実際の使用時間に合わせる。風除室の内外の扉を同時に開けない運用。冬期のエレベーター運転(低層・高層バンクの分離) | ほぼ 0 円 | 低層階の負圧時間率が下がる |
| 2外気量のバランシングと CO2 連動 | 外気処理機の風量を排気量に見合わせる。CO2 による需要制御換気(DCV)で、入れすぎている外気を絞る | 低〜中 | 負圧が浅くなり、冬の湿度 40 % 割れも減る |
| 3気密・区画 | 風除室(二重扉)の整備、シャフトの区画貫通部の目張り、階段室・EV 機械室まわりの建具調整 | 低〜中 | 同じ外気温でも中性帯のズレと差圧が小さくなる |
| 4搬送動力を下げる | ダクト静圧の設定値見直し(静圧リセット)、VAV の最小風量の見直し、フィルタ差圧にもとづく交換管理 | 中 | 静圧の余裕が常時いくら残っているかで評価する |
| 5法令ゾーンの圧力を常時監視に | 喫煙専用室の気流、加圧防排煙の差圧、トイレ・ごみ置き場の負圧を、点検時だけでなく常時記録してアラートを出す | 中 | 逸脱した時刻と継続時間が記録に残る |
効果は、同じ測り方で前後を比べること
段階を進めるたびに差圧で効果を確かめますが、測点の高さと取り出し口の位置を途中で変えると前後比較が成立しません。測り方は最初に決めて固定します。外気温で差圧が大きく動くので、比較は必ず外気温をそろえて行います。まず、御社のビルの差圧を見てみませんか
階数と延床、テナントの業種(飲食の有無)、空調の方式を教えていただければ、測点の置き方と機器構成をお出しします。基準階の平面図とお困りごとをいただければ、御社のビルに合わせたデモ画面の作成は無料です。現地調査が必要な場合の費用は、建物の規模と距離に応じて個別にご相談します。
